こなそんフェス2018 初日レポート

 チャットモンチーが主催するイベント、“こなそんフェス”こと“チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018〜みな、おいでなしてよ!〜”が2018年7月21日(土)〜22日(日)の2日間に渡り、二人の地元、徳島県に所在する四国最大級の多目的コンベンション施設・アスティとくしまにて行なわれた。同フェスの開催は約2年ぶり、2回目。そして今年、その活動の完結を決めたチャットモンチーにとっては、これが最後のステージとなる。7月4日(水)には東京・日本武道館にてワンマンライブのラストを見事に飾った彼女たちがフィナーレの舞台に“こなそんフェス”を選んだのは、涙ではなく笑顔でそのときを迎えたい、そうした想いもあっただろう。二人の想いに応えるべく駆けつけた出演陣の顔ぶれも若手の注目バンドからシーンの重鎮アーティストまでと幅広く、幕間を盛り上げるお笑い芸人勢もよりすぐりの精鋭揃い、と今回もそうそうたるもの。また、両日ともに好天にも恵まれ、終始晴れやかなムードに包まれた、実に“チャットモンチー愛”に満ちた2日間となった。

♪踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃそんそん こなそんそん!

 13時開演の5分前に阿波おどりのお囃子に乗った二人の歌が場内に響き渡った。このフェスのテーマソングとも言うべきこのジングルに、2年前の興奮が瞬く間に甦る。続く「スタート!」の声が合図となって、初日のステージに登場した橋本絵莉子と福岡晃子をオーディエンスの大歓声が迎えた。

「やっほー! 来てくれてありがとう! みんな、めっちゃ暑かったって顔しとるなぁ」
「大丈夫〜?」

 手にした“かもし連”のうちわで客席に風を送る二人の姿に場内が沸く。

「今回はチャットモンチーの完結ということで、最後はやっぱり徳島でお祭りをやりたいと“こなそんフェス”を開催させていただくことになりました」
「無事に開催できてよかったです! 2日間、結構な長丁場になるので、みなさん体調に気をつけて楽しんでください」

 主催者らしくそれぞれに挨拶をしたあとは、本日のスペシャルMCとして吉本新喜劇の座長、小籔千豊を5,000人の“こやびん”コールで呼び込んで3人で公演中の注意事項をアナウンス。「今日はNOしんみりで。みなさん、めちゃくちゃ楽しんでください」と呼びかけつつ、「ただ、僕だけは悲しいです」とオトす小籔に「え、そうなん?」と無邪気に目を丸くする二人が面白い。独特のグルーブ感を生む3人の掛け合いに会場はすっかり“こなそん色”に染め上げられた。

 そんな初日の先陣を切ったのはシュノーケル、オープナーとなった曲は「奇跡」だ。サポートメンバーも交えた力強いポップサウンドに西村晋弥(Vo.& G.)の雄々しくさえある歌声が場内にクラップの渦を巻き起こしたかと思えば、いっそうロックかつダンサブルに振り切れた「NewPOP」でまだまだタフに進化を続けるバンドの現在地を堂々見せつける。差し挟まれるKABA_3(B.)と西村のラップ、野太い“NEW POP”コールなど今の彼らがとても自由に音楽を楽しんでいるのが伝わってくるかのようだ。チャットモンチーとは年齢も近く、同じく同世代バンドのBase Ball Bearとの3組で2006〜2008年の夏には“若若男女サマーツアー”を開催していた思い出に触れて「僕らシュノーケルの音楽人生にとっていちばん楽しかった思い出」と語る西村。「最後の開催からちょうど10年、(その間に)3組ともいろんなことがあったけど、今日また同じステージを踏める機会をチャットモンチーが用意してくれました。みんな、それぞれの場所で生まれて、今こうして同じ時間と空間にいるっていうのは理由があるんじゃないか、という歌を」と告げると「理由」に突入。西村の言った“いろんなこと”には彼らの4年に渡る活動休止も含まれているだろう。それを乗り越え、朗々と鳴らされる今のシュノーケルの音がオーディエンスの胸を熱くした。

 無音のステージに現われるや、刹那の静寂を引き裂くギターノイズでのっけからオーディエンスを圧倒したyonige。牛丸ありさ(Vo.& G.)と、ごっきん(B.)の二人による今もっとも期待の急先鋒バンドだ。むせ返る轟音とともに歌詞に綴られた茫洋として身も蓋もない愛が胸苦しく迫る「最愛の恋人たち」のなんと救いようもなく、美しいことか。続く「our time city」では一転、青々しい疾走感がどこか脱力した牛丸のボーカルと相俟って不思議な躍動を場内にもたらす。「こなそんフェスに出させてもらえてとても光栄です……何から話したらいいかわからんな」と牛丸が言えば「半端やないね。うちら、yonigeを始める全然前からチャットモンチーという養分を吸いに吸いまくってブクブク、ムキムキに太ったバンドなんでめちゃめちゃ嬉しい」と独特の表現で喜びを爆発させるごっきん。牛丸は小学1年生(!)、ごっきんは高校生の頃からチャットモンチーを聴いてきたのだという。その養分、DNAはたしかに次の世代に受け継がれ、そうしてまた新しい音楽に繋がっていくのだということを見事に証明したyonige。鬱屈を抱えながらも伸びやかな潔さを宿した「さよならプリズナー」で、ラストは爽快な余韻を残した。

 演奏の幕間を盛り上げるのはお笑い芸人たちの豊かな個性と確かな手腕だ。野性爆弾とガリットチュウ福島はシュール過ぎるコントで悲鳴と爆笑の交錯するスリリングなステージを展開。ミルフィーユのごとく積み上げられたネタがことごとくオーディエンスのツボをとらえて離さない南海キャンディーズの巧みな漫才に、音楽イベントというシチュエーションもしっかり活かしたミキの兄弟漫才(弟・亜生の繰り出したメロイックサインがまた秀逸)という充実のラインナップがイベントに緩急のめりはりをつけて引き締めるのだ。

 さて、三番手を担うは“こなそんフェス”2回目の参戦となるBase Ball Bear、ただし今回は3ピースバンドとしての登場だ。実は前回の出演がちょうど3ピースになったタイミングの1本目のライブだったという。だが、盟友チャットモンチーの初主宰イベントに水を差したくないという想いから急遽、the telephonesの石毛輝をサポートに擁して参加したのだ。2年ぶりの“こなそんフェス”にBase Ball Bearが轟かせる1曲目は「BREEEEZE GIRL」。ソリッドにブラッシュアップされたアンサンブルが客席に熱狂をもたらし、場内一体のシンガロングが昂揚に拍車をかけていく。3人で出しているとは思えないぶ厚く硬質なサウンドと強靭なビートが絡んでフロアを踊らせる「祭りのあと」のキラーチューンっぷりは健在、むしろ殺傷力は倍増したのではないか。その後のMCで「どういう気持ちで今日を迎えるのか想像できなかった」と言い、「正直、俺、泣くのかなと思ってけど、でも楽屋に入ったらチャットモンチーからのメッセージがあって“泣かないでねネ♡”って書いてあって」と苦笑混じりに明かした小出。今日はチャットモンチーのお祭りだから、みんなと一緒に楽しんで二人の完結と新たな旅立ちを祝いたい、そして今、自分たちは3ピースがとても楽しいということ、チャットモンチーが二人になったときに続けることの大切さを傍で見ていて改めて知ったからこそ“俺らはぜってぇ辞めねえからな!”と頼もしく宣言。デビュー曲「GIRL FRIEND」、3ピースになる決意を歌った「逆バタフライ・エフェクト」と立て続けに演奏された2曲にもその意気がみなぎっていた。

 「イェイ、徳島! 始まるよ。いくよ、チャットモンチー!」、中納良恵(Vo.)の艶やかな第一声がほどよくほぐれた空間に快い喝を入れる。前半戦のトリを務めるのはEGO-WRAPPIN'だった。森雅樹(G.)の他、ベース、ドラム、キーボード、サックス、トランペットという大所帯バンドが奏でる豊潤なサウンドの海を泳いで渡るかのように歌声を自在に駆使してオーディエンスを煽る中納。ジャズとムード歌謡を融合させて独自のサウンドに織り上げたEGO-WRAPPIN'初期の色合いが今なお新鮮な「PARANOIA」、タイトルにも示されている通り、ミディアムテンポのスカのリズムが心地好く客席を揺らした最新曲「A Little Dance SKA」、よりスローかつムーディーに歌い上げられる「a love song」と瞬く間にオーディエンスを恍惚へと導いていく。「徳島、お邪魔してます! えっちゃんとあっこちゃんは今また新しいスタートラインに立っているわけですけど、今日は勇姿を見届けたいな、と。私たちもステージを温める程度ですが、しばしお付き合いください」という中納の挨拶に続いて披露された「BRAND NEW DAY」、性急に織り上げられてゆく音世界、パワフルに繰り出されるメッセージは二人の新たなる日々に贈られたはなむけでもあっただろう。「GO ACTION」では中納がフロアに降り立ち、最前列の観客とハイタッチをして回る一幕もあるなど、徹頭徹尾、観る者を惹きつけて離さない。

 1時間の休憩を挟んでの後半戦、昭和の子供向け教育番組『カリキュラマシーン』のテーマソング(現在放送中の雑学番組『チコちゃんに叱られる!』のオープニングテーマにも使用)をSEに奥田民生が現われた。ステージ中央に鎮座するソファをぐるりと囲むようにして位置につくのは奥田民生のソロではすっかりお馴染みのバンド、MTR&Yだ。下手側にはサボテンの置物まで据えられ、奥田はその隣でギターを肩に掛ける(実のところソファもサボテンも奥田の終了したばかりのツアーセットのアイテムだったりする)。なんとも奥田らしい登場に大喜びのオーディエンスだが、反応に先回りするかのように「そうは見えないかもしれないですけど、張り切ってやります!」と奥田が告げるや、客席はいっそうの歓声に沸き返った。自身のバンドのことをそのまま歌にした痛快なロックンロールナンバー「MTRY」から「イージュー★ライダー」、「エンジン」と、とことん肩の力が抜けていながらロックのど真ん中をぶち抜いた迫力のサウンドが澱みなく鳴らされていく様は圧巻のひと言。「はい、徳島〜」と促されれば客席は抗う術もなく大合唱、完全に彼の手のひらの上だ。わざとしゃがれ声で歌うため、曰く「あんまりやると歌手生命が短くなってしまう」曲、「サケとブルース」では歌詞の最後の一節を“俺はブルースを歌うのさ こなそんで~”に替えるという粋な演出も。さりげない計らいに事務所の後輩への奥田の心情を垣間見る思いがした。

 初日がスタートしてからすでに6時間半が過ぎた。いよいよライブアクトの大トリ、チャットモンチーのステージだ。

「みんな、ありがとう! 元気ですか〜!!」

 

 出てくるなり、最高潮のテンションで呼びかける福岡に「元気〜!!!!!」と負けず大声で応えるオーディエンス。

「初日、ヤバすぎひん? ずっと袖で見てたんですけど、たまらん。そんで、みんなの喜んどる顔がようわかった。最高やね。……えっちゃん、まだほとんどしゃべってないけど、どうなん?」
「もうね、しゃべることがあんまりないかも」
「それを13年、通してきましたね」
「なのにいつもありがとうございます」

 チャットモンチーならではの緩いやり取りに場内は大爆笑。まだ初日だからだろうか、まるで終わりを感じさせない。そんな二人が最初に演奏したのは地元のラジオ局エフエム徳島のためにチャットモンチーが作ったジングル「きっきょん」だった。わずか10秒ほどの短さながらライブでは初披露となるレア曲に、客席が盛り上がらないわけがない。しかも“こなそんフェス”のために2番を作ってきたというから、やんやの大騒ぎ。得意満面で歌うは「やんりょん」、「きっきょん」が“聞いてる”の徳島弁ならこちらは“やってる”、つまり前者はエフエム徳島を聞いてるよ、後者は“こなそんフェス”をやってるよ、がその大意だ。いっそうゆるりとほぐれたところで、ここからが本番。見れば二人の後ろにはドラムセットが用意されており、どうやら今回はチャットモンチーのオリジナルスタイルである3ピース編成でライブを行なうらしいことが伺える。そうして本日のスペシャルMC、小籔千豊は最初のドラマーに呼び込まれ、「風吹けば恋」「真夜中遊園地」の2曲を演奏。「風吹けば恋」は前回の“こなそんフェス”でも同じメンバーで披露して喝采を浴びたが、さらに進化した一体感あるアンサンブルには目をみはらずにいられない。だが興奮はこれだけに留まらず、次には奥田民生がドラマーとして再登場。徳島県民にはおなじみのお祭りのテーマソング「阿波の狸」に続き、奥田プロデュースによる「コンビニエンスハネムーン」をまさかこの3人の演奏で聴ける日が来ようとは。その後もチャットモンチーのデビュー曲「ハナノユメ」をシュノーケルの山田雅人(Dr.)、「恋の煙」はBase Ball Bearの堀之内大介(Dr.)と豪華な共演が続き、最後は“ご存知! 若若男女オールスターズ”としてシュノーケル、Base Ball Bear、チャットモンチーが一堂に会して「今夜はブギー・バック」のカバーまで。しかしながらまだ特大のサプライズが残されていた。「ちょっと友達を呼んでくる」とステージ袖に消えた小出がチャットモンチーの元ドラマー、高橋久美子を連れてきたのだ。しかも3バンド分設置されたドラムセットの真ん中は、事務所の倉庫に眠っていた高橋のものだ。高橋が踏み鳴らす四つ打ちのキックから始まり、福岡のベース、橋本のギター、さらにシュノーケル、Base Ball Bearの演奏が重なって銀テープが炸裂する。ここが徳島で、“こなそんフェス”で、若若男女メンバーが集ったからこそ実現した夢の「シャングリラ」。気づけば3バンドとも3ピースなのも奇跡みたいだ。

 最高の初日は“こなそんフェス”のお楽しみ、阿波おどりで総仕上げとなった。徳島でも屈指の有名連(連とは踊りのグループの名称)、蜂須賀連の目の覚めるような演舞を鑑賞したあとは、客席を練り歩く、チャットモンチー率いる“かもし連”とともに場内の全員が“踊る阿呆”と化す幸せ。「やっとさー」と高らかに叫ぶ橋本、福岡の掛け声に「やっと、やっとー」と5,000人分の声がこだまして、2日目に最高のバトンを渡した。

文:本間夕子
写真:古溪一道、上山陽介

こなそんフェス2018 2日日レポート

 ついにこの日がやってきた。2018年7月22日、チャットモンチーが主催する地元・徳島県にて開催のイベント““こなそんフェス”こと“チャットモンチーの徳島こなそんそんフェス2018〜みな、おいでなしてよ!〜”の2日目にして最終日。この日をもってチャットモンチーは活動を完結、結成18年、メジャーデビュー13年の歴史に終止符を打つ。昨日に引き続き、綺麗に晴れ渡った空の下、会場となったアスティとくしまは開演前から大盛況、場外のフードエリアやグッズ販売のブースもたくさんの来場者で賑わっており、湿っぽさは微塵も感じられない。泣いても笑ってもこれがラスト、ならば笑って今日を締めくくりたい。観客も、出演者陣も、もちろん本人たちもきっと同じ想いでいただろう。

 これまた昨日と同様、開演時刻13時になる5分前にチャットモンチーの二人が登壇。「本日はお日柄もよく、完結にはもってこいの天気になりました。ありがとうございます」と橋本絵莉子、「今日はホンマ完全燃焼してもらわな、困りますからね。よろしく頼むぜ!」と福岡晃子がそれぞれに挨拶をすると、この日のスペシャルMCとして吉本新喜劇の宇都宮まきを呼び込んだ。会場に着いたときからずっとウルウルしているという宇都宮は「チャットモンチーさんが大好きっていう真心を込めてお二人を盛り上げたい。みんなも自分をMCだと思ってほしい! みんなでこの舞台を全力で楽しんでほしいねん! みんなが主役!」と独特の言い回しで意気込みを語り、さっそく客席を盛り上げる。

 2日目のライブアクト、トップバッターを務めるHump Backが1曲目に選んだのは「湯気」だった。今年3月にリリースされたチャットモンチーのトリビュートアルバム『CHATMONCHY Tribute ~My CHATMONCHY~』にもこの曲で参加しているHump Back。もともとチャットのコピーバンドからスタートし、愛情とリスペクトと初期衝動が綯い交ぜになって押し寄せてくるようなエネルギーに満ちた演奏に、このステージに懸ける彼女たちの想いの強さがひしと伝わってくるようだ。「チャットモンチーへの愛を語るには25分じゃ正直、全然足りないけど、チャットモンチーを見てきた私たちがどんなライブをするのかを見せるには充分過ぎる時間をもらいました。大事な時間をありがとうございます! 神様なんて信じるヒマがあったら自分を信じようぜ。自分を信じられへんかったらロックバンドを信じてくれ。私はチャットモンチーを、ロックバンドを信じてきました。そんな私たちを信じてください!」、林萌々子(Vo.& G.)の渾身の叫びがオーディエンスに火をつける。チャットモンチーが青春のすべてだったと語り、「さんざん夢と青春をもらったので、今度は私がこのバンドで誰かの青春になります!」と誓ってなだれ込んだ「星丘公園」に惜別を抱えてなお前進を止めないHump Backの、頼もしい未来と決意が見える気がした。

 “こなそんフェス”には2回目の出演。チャットモンチーとは大学時代の軽音部からの付き合いだという、いわば同級生バンドであり、徳島県を拠点に精力的な活動を展開している四星球が今回も全身全霊のパフォーマンスで会場に爆笑と一体感をもたらした。「えっちゃん、あっこちゃん、今までありがとう」と芝居がかったすすり泣きのナレーションに始まり、徳島のマスコットキャラクター・すだちくんに扮したメンバーが合唱曲「巣立ちの歌」(おそらく“すだち”と完結に伴う“巣立ち”のダブルミーニング)をSEに現われるといういきなりお腹いっぱいのオープニング。「妖怪泣き笑い」で「やってない人はリストバンドを切っていきますので!」と脅迫まがいのお願いでオーディエンスに振り付けをさせたり、新曲「言うてますけども」ではチャットモンチーの武道館ライブや橋本絵莉子の楽屋エピソード等の波状攻撃で客席を笑いの坩堝と化したかと思えば、一方でかつて橋本がゲストボーカルとして参加した「蛍の影 feat.橋本絵莉子」では本人をステージに招いて北島康雄(シンガー)とデュエットを披露し、ロマンチックな一面を見せるあたり、ただのコミックバンドではない。しかし、うっとりさせたのも束の間、次の「Mr.Cosmo」ではなんと福岡の父をステージに召還。思いもよらないサプライズに福岡がステージ袖で膝から崩れ落ちるという一幕も。何もかもが規格外なライブのラストは彼らの定番曲「クラーク博士と僕」を今日だけのアレンジに替えた「クラーク博士と僕とモンチー」。“♪徳島生まれの同級生が徳島で完成する/チャットモンチーの木の下で一生耳鳴りのまま”という頭サビで始まり、チャットモンチーとの思い出もふんだんに散りばめられたその曲は、同級生だからこその想いの塊だと言っていい。このステージで北島は幾度となくチャットモンチーの完結を“完成”と呼んだが、きっとそこにも同じ気持ちが滲んでいるのだろう。

 2日目もライブアクトの幕間にはお笑いコンビの精鋭がオーディエンスを存分に楽しませる。尼神インター(誠子曰く“吉本のチャットモンチー”らしい)は心理テストと見せかけた渚の執拗な誠子いじり漫才が中毒性の高い笑いを客席に引き起こし、テツandトモはこのフェスにちなんで“チャットモンチーなんでだろう”でオーディエンスを大いに喜ばせては、せっかくだからと二人を呼び込んでMVで共演した「Magical Fiction」の一節を生演奏。ヤンシー&マリコンヌ(吉本新喜劇・松浦真也&森田まりこ)は話題の「リンボーダンスSHOW」を始めとした歌ネタ漫才で客席のハートを掴み、と実にバラエティ豊か。音楽も然りだが、生で観るお笑いはやはり格別の面白さがある。

 “♪チョコレートとアイスとオシャレとチャットモンチーのことが大好きで”“♪チャットモンチーってすげー”と1コーラス分を丸々替え歌にしてのっけから迫力の演奏を聴かせた「喜びの歌」。懐深く、温かく、そして男気に溢れたTHE イナズマ戦隊のアンサンブルが朗々と場内を揺さぶった。このあとMCで上中丈弥(Vo.)が明かしたところによれば搭乗予定だった飛行機が急遽欠航となり、なんと本番の15分前に到着したばかりだそうだが、そんなアクシデントがあったことなど微塵も感じさせない堂々のステージングにはただただ見惚れるしかない。チャットモンチーに出会った頃の曲を、と立て続けに演奏された「バカ者よ大志を抱け」「オマエ・がむしゃら・はい・ジャンプ」の泥臭くもまっすぐなメッセージに奮い立たされたかのように場内のそこかしこで拳がザンザンと突き上がる。「事務所の後輩です、チャットモンチー。この間、熊本(昨年3月開催のイベント“HAPPY JACK”)で久しぶりに会って、演奏してるのを観て……こんなに小ちゃいおばさんなのに、それがまたカッコよくて。“こいつら、背負っとんなぁ!”って思ってね。彼女たちが残してくれたものを何かしら力に変えて、力いっぱいジタバタと生きる大人であり続けましょう」と上中が呼びかけて、ラストに奏でられたのは「応援歌」。新たな旅立ちを前に、これ以上のエールがあるだろうか。

 グッドメロディ、グッドソング。バイオリンとチェロも加わった心地好いバンドの音色に誘われるように登場した森山直太朗のステージは曲や歌の良さだけでなく、彼ならではのサービス&エンターテインメント精神が存分に発揮されたものだった。1曲目「魂、それはあいつからの贈り物」を歌い終えるや、「どもなす!」と耳慣れない単語を笑顔で繰り返してオーディエンスを困惑させる森山。「あ、興奮して早口になっちゃった。どうも森山直太朗です!」と謎が解き明かされると場内は一気に爆笑の渦に。「みんな、徳島ラーメン味わってますか! アリーナ、味わってる!? ……すみません、広いところにあんまり慣れてないもので、コール&レスポンスのしどころがわからなくて」などと妙にテンションの高いMCを繰り広げては、「よく虫が死んでいる」の直前には蚊が飛び交っているようなSEとバンドぐるみの小芝居で客にも手でパチンパチンと虫を叩く仕草をするように誘導するという巧みな作戦で結果、会場いっぱいにクラップを起こしたりといちいち手が込んでいる。当然、客席もわかってやっているのだが、これがやけに楽しいのだ。この季節にぴったりな名曲「夏の終わり」で沁み入るような歌声を響かせた直後に「うんこ」で感動のちゃぶ台をひっくり返すところも、スペシャルゲストとしてチャットモンチーを招き入れたときもわざと「チャット&モンチー!」と呼び間違えて今度は二人との小芝居を始めるあたりも、らしいと言えばらしい。そうして一緒に演奏した「世界が終わる夜に」(チャットモンチー)のなんと美しいことか。橋本の歌に森山のハーモニーが綺麗に重なり、福岡のベースがこの楽曲の孕む不穏さを増幅させる。この深みにずっと浸かっていたいと思わせるまさに白眉の共演だった。

 初日にも上映されていたが、1時間の休憩タイムの間にはステージの両サイドに設えられたスクリーンに、チャットモンチーによる阿波おどり講座や徳島観光のポイントが紹介された映像が流れて観客を楽しませる。せっかく徳島に来てくれたのだから、自分たちの大好きな故郷のいいところをとことん味わってほしいという心遣いは前回からまったく変わっていない。

 後半戦を迎えたライブアクト、スピッツが姿を現わすと割れんばかりの拍手と歓声が轟いた。全員が持ち場につき、「バニーガール」のイントロに突入するや、田村明浩(B.)、草野マサムネ(Vo.& G.)、三輪テツヤ(G.)が一斉に楽器を鳴らしながらステージ前へと踊り出る。しびれるほどの王道感、あまりの目映さに図らずも涙腺が緩みそうだ。アウトロの余韻から、演奏は間髪入れずに2曲目へ。﨑山龍男(Dr.)が踏む四つ打ちのキック音に「マジで!?」とざわつくオーディエンス。そう、チャットモンチー「シャングリラ」のカバーだ。どこか達観したようでいて、色気をまとった艶やかな草野の歌声が「シャングリラ」にまた抜群にフィットする。7年前に高知でチャットモンチーと対バンをした際、一度だけこの曲のカバーをしたことがあるそうだが、サウンドの厚みといい、さすがとしか言いようがない。演奏を終え、「もうひと仕事終えたような感じです」とホッとしたように草野。「1回だけで終わるのがもったいないなと思ってたんですよ。演奏していても楽しい曲なので、ここで歌えてよかったです」と言葉を続けると「俺らにくれないかな」と田村が冗談めかし、さらに草野も「引き継ぐよね」。そんな乗り気なやり取りに沸きに沸く客席だったが、チャットモンチーにとって最大級の褒め言葉だったのではないだろうか。その後、「今日は最年長なんですが、テツトモみたいな動きをするとたぶん3分も体力がもたないので、スピッツなりの魂のぶつけ方でみなさんに楽しんでいただこうと思います」とまた、観客をひと笑いさせると「魔法のコトバ」に「空も飛べるはず」と名曲を連投。最後に草野が口にした「二人の未来に幸多かれと祈ります。また絡めるといいな」という言葉に、その実現を願う。

 とうとうフィナーレが近づいてきた。いよいよチャットモンチーのラストライブだ。出てくるなり、たくさんの温かな声援を浴びて「これはあかん! まだ待ってくれ」と涙声になりそうなのを必死にこらえる福岡。「“こなそんフェス2018”無事に最後のバンドとなりました」と気丈に告げるも「あんまりしゃべったら、あかんそうやわ〜」と顔をくしゃくしゃにする。しかし橋本絵莉子は強かった。「まかせて!」と挨拶を引き継ぐと「この中にもこれからバンドを始める人がいるかもしれないけど、もし解散みたいなことになったら、ワンマンライブもいいけど、イベントで終えるのもオススメです!」と独自の見解を語って場を和ませる。なぜオススメかといえば、イベントならば観客とスタッフから贈られる愛情に加えて、アーティストからも音楽でメッセージをもらえて2倍も3倍も嬉しい想いができるからだという。だが、それはチャットモンチーがその音楽も人柄も含めてここまで愛されるバンドに育ったからこそだろう。変わらず地元を愛し、バンドを、音楽を愛し、出会った人たちを心から大切にしてきた彼女たちだからこそ辿り着いた“完結”なのだと思う。

 さて、ラストライブの1曲目は初日と同じく「きっきょん」(2番の「やんりょん」も)から。実は頼まれてもいないのに勝手に作ってエフエム徳島に送ったら使ってくれたのだという昨日には明かされなかったエピソードが爆笑を誘う。そうして、そこからはスペシャルチャットモンチータイム。「すごいよ。何がすごいって、昨日みたいにいろんなドラマーさんが出てきてチャットモンチーの後ろで叩いてくれるんです!」と橋本が声をはずませ、一番手にHump Backの美咲(Dr.)が呼び込まれた。緊張の面持ちでやってきた美咲だったが、ひとたび演奏が始まればまるで長年を共にしたバンドの一員然とした堂々たるプレイで魅せ、呼吸もぴったり。特に「湯気」はオリジナルのチャットモンチーを観ているような錯覚にさえ陥った。続いては四星球のモリス(Dr.)との「阿波の狸」と「ハナノユメ」。ちなみに「阿波の狸」とは徳島で毎年開催されている“ふるさとカーニバル阿波の狸まつり”のテーマソングであり、このフェスでぜひやりたいという橋本の要望により、今回のカバーに至ったという。モリスの乗ったドラム台を運び入れにきたり、狸のヘルメットをかぶって乱入したりと四星球メンバー総出の大活躍のおかげで、二人も涙などすっかり乾いてしまったようだ。「熊本で一緒になった瞬間、“こなそん”に出てほしいと思った」と福岡が語るTHE イナズマ戦隊の久保裕行(Dr.)を迎えての「風吹けば恋」「真夜中遊園地」は実にダイナミックで、推進力のあるビートにチャットモンチーの二人も安心して背中を預けているのがよくわかる。ドラマーによってこんなにも印象が変わるものかと驚かされるが、それでいてなおチャットモンチーという軸が揺るがないことにも目をみはった。

「早過ぎるよ〜! あっという間過ぎひん? ライブってこんなに早かったっけ」
「あと2曲!」

 福岡の噛み締めるような言葉と、橋本のアナウンスに場内のあちこちで悲鳴が上がる。チャットモンチーの有終の美となるステージを伴走したのはスピッツの﨑山だった。最後の最後のライブを敬愛する大先輩のドラムで飾ることになろうとは、彼女たちだって想像していなかったに違いない。なにせ橋本が「緊張感が走ってます」と思わず口にしてしまうくらいだ。「ホンマすごいな。最後はスピッツモンチーで締めくくらせていただきます。それでは﨑山さんと一緒にやりたいのはこの曲!」と福岡が告げたのを合図に「ツマサキ」が迸る。どっしりとした音の深みとジャストなタイム感が二人の演奏と歌にビシビシとハマって、曲というパズルがみるみる作り上げられていく様は見事としか言いようがない。感極まってか微かに震える橋本の声、福岡のコーラスも一瞬、途切れてしまうが、それもまたよし、だ。「えっちゃーん!」「あっこー!」とひっきりなしの声援に励まされ、ラストは「シャングリラ」でゴールテープを切ったチャットモンチー。今度は最後までしっかりと歌い切り、オーディエンスも声を張り上げての、全員が笑顔の大団円だった。

 言い尽くせないほどの感謝と、褪せることのない大好きだという気持ち。チャットモンチーからオーディエンスへ、オーディエンスからチャットモンチーへ。グランドフィナーレとなった阿波おどりは温かな想いを互いに手渡し合うような幸福なひとときだった。橋本と福岡の率いる“かもし連”にスペシャルゲストとして高橋久美子も参加、客席を踊りながら練り歩くオリジナルメンバーの3ショットがうれしい。

「ずっと応援してくれたみなさんにこれからも幸せが訪れますように。今日からがまた、みなさんの何かしら新しいスタートになったらいいなと思います。本当にありがとうございました!」

 終演のBGMに流れたのはチャットモンチーの「青春の一番札所」だ。“♪すだち酒で乾杯!!”と5,000人が声を揃えて別れを惜しむ中、バイバーイ!と二人も名残惜しそうに手を振り続ける。そうしてついにその姿がステージ袖に消えたとき、アスティとくしまに轟いた盛大な拍手は見事その活動を全うした彼女たちへの賛辞と祝福そのものだった。無事“チャットモンチー(済)”となった二人はきっとこれからもそれぞれのペースで歩んでいくのだろう。だがチャットモンチーが残した音楽の灯はけっして消えることはない。このかけがえのない2日間にそう確信する。

文:本間夕子
写真:古溪一道、上山陽介